根拠のないアナログ論

2014/4/23 up

 とつげき東北氏と福地誠先生による名著である「おしえて!科学する麻雀」では、麻雀を数値的に理論的に追求し、多くの麻雀ファンの共感を得ました。私は「麻雀に流れはある」ものの、「それを戦術に生かすのは困難、というかほとんど無理」というのが持論です。しかし世の中には、何の根拠も示さずに大マジメに「流れ論」を解説するプロが多数いらっしゃいます。そこまではまだ良いのですが、残念なことに、中には根拠もない自説を押し付けて、他説を主張するプロを「アマチュア」と批判する腐ったプロまで存在します。

 私は根拠のあるアナログ論を待ち望んで久しいのですが、根拠のないアナログ論に関しては一切共感できません。例えばある本には「不調の時は手役はできにくいが、ドラは関係ない。不調時はドラを使え」という内容が書いてあり、別な本には「不調時にドラが来るわけがない。ドラ受けはさっさと見切るべきである」というようなことが書いてあります。両方ともかなり有名なプロが書いた本の内容です。どちらも何の根拠もないのですが、我々アマチュアは一体どちらを信じればいいのでしょうか。両方とも信じられないというのが妥当な感想だとは思いませんか?

 今度は実際にプロの書籍を見ていきましょう。根拠のないアナログ論がどれほど虚しいものか、お分かりいただけるかと思います。そして、ある程度データに基づいたアナログ論の書籍についても併せて紹介させていただきます。こういう本がもっと増えていくことを強く期待したいものです。

瀬戸熊直樹プロの例

 <瀬戸熊氏(と構成を担当する黒木真生プロ)の著述> 西家の松崎良文プロから2巡目のリーチが入った(注:捨て牌は)。あまりにも早すぎて読みようがないと考えるのが普通だが、瀬戸熊プロは独自の感性でこのリーチに読みを入れていたという。とりあえず一発目は現物のを切ったが、現物がなくなったこの状況では何を切るべきだろうか?(中略)

 実は松崎プロは、この決勝戦でいまひとつ乗り切れず、この日も不調だったのだが、少しだけ調子が上向きつつあった。一方の私は好調だったのが、やや調子を落とし始めていたところ。そのあたりは点棒を見ていただければ分かるだろう(注:松崎氏29,900、瀬戸熊氏21,900)。
 このような状況での早いリーチなら、私が切る可能性が高い牌がアタリになっている。すなわち浮いているの字牌が危険だと判断したわけである(中略)。しかし、私は自分の意に反して、に手をかけてしまった(中略)。そして案の定、松崎プロに放銃となった。ドラ暗刻の満貫であった(瀬戸熊直樹「麻雀 アガリの技術」より)。

 <解説> これ以上ないほどの結果論です。結果論なら何とでも言えます。これではアマチュアの参考にはまったくなりません。まず、好不調の定義が不明です。点棒を持っていれば好調で、点棒が少なければ不調なのでしょうか。好不調の定義を一覧で示し、どの程度不調であれば「私が切る可能性が高い牌がアタリに」なるという薄気味悪い現象がどれほどの確率で起こるか、示していただきたいものです。そうでなければ実戦で生かすことなど、到底できません。確率だけに身をゆだねるのは怖いというプロもいらっしゃいますが、根拠のない結果論に身をゆだねるのはその何倍も危険なものです。

森山茂和プロの例

(東家の捨て牌)
     ×     ×        (×はツモ切り)
(リーチ)
(西家の手牌)
  ツモ  (ポン)  ドラ
 <森山氏の著述> 東1局に軽く2000点をアガった西家は、この局も5巡目にション牌のから仕掛けた。そこへ8巡目、親からリーチが入った。捨て牌をよーく見ると、4巡目の切りが早い。少しでも麻雀がわかる人なら、この切りは、からの切りで待ちは第一本命と考えるよね。さて、リーチにどう対応すればいいのか。
 弱気な西家は、まず現物牌のを切った。ソーズ待ちならは大本命、それとドラがだから、ペン、カンの待ちもあるかも。待ち読みに関しては、それは正しい。どの牌もアタる可能性はあるさ。だけど、ここでを切る打ち方は、典型的な負け麻雀のスタイルだね。

 自分のペース、自分の流れを作って行くには、相手のチャンスを叩き潰すのが一番有効なんだ。親のリーチを不発に終わらせるには、を切ってリーチの現物で待つのがセオリーなのだ。親に一発で打ち込んだらどうするのかって? そりゃアタることもある。それでもを打つフォームが長い目で見て、圧倒的に有利なんだよ(中略)。
 を切って、アガリを逃してしまうものだから、並か並以下のツキになって、苦労して麻雀を打つ羽目になるんだな。上とか特上のツキを手に入れるチャンス。ここが勝負どころなんだよ。(森山茂和「キミも勝ち組になれる!」より)

 <解説> 物事には必ず根拠があります。円周率が約3.14であることにも、三平方の定理にも、三角関数にも、必ず根拠があり理由があります。それがなければ、ただの意味不明な数式の羅列でしかありません。森山氏のこの著書は、年長者が読むことをまったく念頭に入れてないのか、終始上記のような上から目線の偉そうな口調で書かれていますが、ここは1万歩くらい譲って黙認しましょうか。

 仮に文体を黙認したとしても、内容は看過できません。「切りが長い目で見て圧倒的に有利」と書いていますが、根拠は1文字も書かれていません。まさか「上とか特上のツキを手に入れるチャンス」というのが根拠なのでしょうか。寿司ならともかく、上とか特上のツキなんて聞いたこともないですが。

 で、「特上のツキ」って何なのでしょう。何をすれば「特上のツキ」を手に入れることができて、手に入れたらどうなるのか、どの程度の得になるのか。それは一発で親満に放銃するリスクを考慮しても得であるのか。せめてこれくらいは書いてくれないと、子供だって納得しません。根拠のない妄言でよければ、私にだって書けます。仮にもプロを名乗る人間なら、プロらしくアマチュアを納得させる文章を書いてくれないと。まったく困ったものです。

土田浩翔プロの例

 <土田氏の著述> 私は第1打で字牌を切らない主義なので、ことのほか第1ツモ牌には注目して打っている(中略)。第1ツモだけで何がわかるんだ!? という憤りにも似た疑問を抱かれる読者諸兄にひとこと。それがわかるんですよ、実際には……(中略)。

 表1(注:省略しております)は、第二期天王戦決勝全67局において、第1ツモでトイツが増えたケースを細かく分類したものである(ただし、残念ながら記録を採る際に最後のチョンであるオヤの第1ツモを記載していない関係上、オヤに関してのサンプルは全て排除している。然るに67局×3人分、201例をサンプルとした)。

 約200パターンで、数牌が重なったケースが34例。字牌の重なりが11例あった(中略)。私は以前からかなり強く意識していたのだが、第1ツモでトイツが増える手牌は、チートイツにならずに三暗刻やトイトイなどのコーツ系手役に向かって進んでいく傾向があると見ていた。何故トイツが増えただけなのにチートイツではなくアンコが出来やすくなるのか? その理由づけを探すのは難しく、経験則という曖昧な言いかたしかできなかったがこの天王戦のデータを見て意を強くした。

 表2は、第1ツモでトイツが増えたとき45例中8例の和了があったケースの中身についてのものである。ピンフでの和了は私のたった1例。実はもっと凄いことに、45例中、ピンフテンパイを果たしていた例は、私のこの和了以外たったの1例しかなかった。つまり、45例中の2例。消費税の5%を切る出現率であった。

表2


コーツ数 ツモ ロン
安藤 喰タン・ドラ3
役牌ノミ
混一色・役牌2




.


土田 ピンフ・三色
七対子・ドラ2
役牌2・ドラ1





木下 タンヤオ・三暗刻
岡澤 役牌・ドラ

 和了を果たした8例中、コーツの数が3つあったものが5例。これがたまたまなのか必然なのかは、サンプル数をぐっと広げることと打ち手のレベルを千差万別にする必要があろうが、この結果は驚異である(中略)。ということは、このシステムさえわかっているならば、第1ツモでトイツが増えた局は、絶対にリャンメン形の先切りなどせず(一見ピンフに見える配牌であったとしても、その手牌は95%ピンフには収束していかない)ひたすらコーツが増えることを期待する打ち方をしたほうがいいのである。 (土田浩翔「土田システム 麻雀が強くなるトイツ理論」より)

 <解説> 「第1ツモで対子が増えた局は絶対にリャンメンの先切りをするな」とノー根拠で書いたとしても、嘲笑の対象になるだけです。しかし土田氏は、サンプル数がやや少ないものの、ちゃんと根拠を明示しています。とにかくわずかでもいいから、根拠を明示するだけで説得力が何十倍も異なるという好例でしょう。

 私も実戦で取り入れてみましたが、たしかにピンフにはなりにくくて、仮にメンツ手になったとしても、暗刻混じりのノミ手みたいなのになりやすいという感想です(これはあくまで私個人の感想にすぎませんので、あまり当てにしないでください)。

総評

 皆様いかがでしたでしょうか。旧態依然の連盟を除けば、最近はデジタル麻雀全盛期と言えますが、根拠のあるアナログ論なら捨てたものではないと思いませんか。私はアナログ麻雀を全否定してデジタル麻雀を推奨する意図は全くないのですが、デジタル麻雀がある程度データを基にしているのに対し、アナログ麻雀の戦術本は上記の土田プロの書籍などを除き、データを用いて解説しているものがごく一部に限られるという悲しい現実があります。世のデジタル雀士も、そのあたりを不満に感じていることでしょう。

 「不調の時に好調の相手からリーチがかかった場合、浮き牌がアタリになりやすい」という非科学的で突拍子もない主張を、全くのノー根拠で延々と解説されても、我々アマチュアには理解のできないところです。脳がついていきません。我々アマチュアにも理解できるアナログ本を誰か執筆していただけないものでしょうか。

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