地雷・連盟の何切る本

 2018/7/14up

どんな本なの?

 2018年2月28日発売の「麻雀「何切る」200人に聞きました! 一流麻雀プロが答える珠玉の100問超ベストセレクション」という本があります。著者は、執筆時点で41歳になる佐々木寿人プロ、そしてアイドルと雀士の「二刀流」である高宮まりプロ。…敢えて詳細は書きませんが、何やら不吉な匂いがします。この本の冒頭には以下のようなことが書かれています。

 「麻雀の何切る本は巷にあふれかえっているが、このように多数の人にアンケートを取る形式のものは非常に珍しい」

 ちなみに似た本として、1992年9月発売の「定本何を切る!?」という本があります。小島武夫・安藤満・飯田正人・金子正輝・井出洋介らのプロや、雀鬼こと桜井章一氏に何切るの答えを聞いているほか、読者にもアンケートを取っています。片山まさゆき・西原理恵子の両氏も参加し、馬場裕一プロがうまくまとめている良著です。もはや伝説の本と言えるかもしれません。

 ヒサト・高宮両プロが書いたのは、26年も前に発売されたこの本と同じ…というかそれ以下の本でした。もう少し詳しく内容を掘り下げてみましょう。

例1

 「まりはこれを切る」→普通の人はとか切りだと思いますが、私のファーストインプレッションは切りです。ノベタンがあまり嫌いじゃないのと、多少テンパイが遅れてもあまり気にしないからです。メリットは456と567両方の三色が狙えて、ドラツモも生かせることですね。
 「みんなの解答比率」→56%、28%、14%、4%。

◇   ◇   ◇

 上記のほかに、浅見真紀プロの切りが紹介されていて、それで終わり。結局何が正解かであるかとか、各打牌のメリット・デメリットの解説はほとんどありません。「ノベタンが嫌いじゃない」とか、好みを丸出しにされても読者にとっては何の参考にもならないでしょう。

 ちなみに上記の手牌の最善はだと思うんですが、いかがでしょう。ちなみにこれは東3局の東家、5巡目の手牌なのですが、こうしておけば好形テンパイで即リーチに行ける確率がグッと上がります。ツモがあまり嬉しくないピンズを見切るわけです。すでに打点は十分なので、ドラツモの裏目は気にしないことです。

 切りは1シャンテンの受け入れが大幅に減る(切りの約半分)うえにノベタンになりやすいので、私はお勧めできません。親でそこそこの打点が期待できるこの手牌で三色に固執する必要はどこにもありません。567の三色だけチラッと頭に入れておけば十分でしょう。

例2

 「まりはこれを切る」→私はあまりアタマを優先するのが好きじゃないんです。なのでの受けは捨てて引きかのツモに賭けたいと思います(後略)。
 「みんなの解答比率」→47.1%、26.5%、17.6%、8.8%。

◇   ◇   ◇

 この手牌は切りが正解と思います。ただし萩原聖人さんの言う切りとの差はわずかなので、この2つなら好みの問題と言えるでしょう。切りは瞬間的に受け入れが狭くなりますが、テンパイ時に好形になりやすいのが魅力で、当然ピンフになる確率も高くなります。

 高宮プロの言うは明確な誤打です。受け入れ枚数は切りとほぼ一緒ですが、タンヤオになる確率が下がり打点が落ちるためです。また、マンズの3メンチャンを早々に放棄することでアガれる確率も下がります。

 ちなみにあまり意味がないので本に収録されている全体牌譜は省略していますが、マンズが大量に切られているわけではありません。好きだの好きじゃないだのという理由で、3メンチャンを捨てて打点を落とすのは大損に決まっています。

例3

東家(33,000点)の捨て牌 
西家(25,000点)の捨て牌 
北家(25,000点)の捨て牌 
南家(17,000点)の手牌。東2局0本場です。

 「ヒサトはこれ切る」→切りでハネ満確定リーチ。ツモなら倍満。場に2枚切られていると「を切った人はを持っている可能性が高いから、は相手に何枚持たれている」とか言う人もいるが、「見えてないのは全部山にある」ぐらいの気持ちで攻めるべし。
 「みんなの解答比率」→リーチ45%、ヤミテン40%、ヤミテン・リーチ、リーチ各5%。

◇   ◇   ◇

 を切ると、の2種4牌待ち。一方ドラのを切るとの5種10牌待ち。いくら東1局に満貫を放銃していると言っても、待ち牌の数に2.5倍も差があれば、ドラ切りリーチが最善でしょう。アガリ確率でも2倍近い大差があります。満貫・ハネ満も十分期待できるので、打点が大幅に下がるわけではありません。

 「見えてないのは全部山にある」はただの精神論で、何の役にも立ちません。とりわけ北家はマンズを固め持っていそうな捨て牌で、全部山にあればという願望は虚しいだけです。むろんリーチをかけてオリられてしまえば、待ちが悪くてアガリは遠いでしょう。ちなみに菅原千瑛プロは切りのヤミテンを提唱していますが、ヤミなら東家・西家からのポロリも十分期待できるので、寿人プロの言う即リーチよりはるかに理にかなっています。

総評

 ここまででお分かりだと思いますが、この本は寿人・高宮両プロが世間一般の打牌に異を唱え、「俺はこう打つんじゃあ」という誤打を紹介する本なのです。もし読者が真に受けてしまったら、悪い打ち方を身につけてしまうことになります。

 どれを切っても大差ない手牌で何を切るかアンケートを取るのは意義があると思いますが、明らかに正解が1つしかない手牌で「自分は○○が嫌いなのでこれを切る」「○切りがマジョリティ」だけで解説が終わっているのはいかがなものでしょう。1990年代ならそれでも許されたでしょうが、より細かく麻雀を突き詰める現代においては完全に時代遅れの本であると評さざるを得ません。

 ドラがなのに、切りを「ドラ切り」と表記している設問があるなど、誤植も見受けられました。どちらがドラかによって内容がガラリと変わってしまうのですが…。

 ここまでボロカスに書いておいてなんですが、寿人プロと私の打牌は一致することもけっこう多かったです。高宮プロとはとことん合わなかったですね…。

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