十段位戦 八百長疑惑

 最高位戦の八百長疑惑から31年もの歳月が流れました。その事件の当事者であった灘麻太郎は日本プロ麻雀連盟の会長を務め、その連盟が主催するタイトル戦のひとつに「十段位戦」があります。そのルールは驚きのもの。まず初段のプロだけで予選を戦い、勝者が二段戦に進む。その勝者が三段戦Aに進む…というのを延々と繰り返し、最後に八・九段戦が行われて、勝ち上がった4名とタイトルホルダー(十段位)の計5名が決定戦(半荘12回)を行うというものです。

 まさに連盟の「ピラミッド構造」の集約ともいうべきルールですね。将棋や囲碁に詳しい人なら分かると思いますが、段位が高い者が強いとは限りません。いや、とっくに全盛期を過ぎたベテランの九段よりも若手の四段・五段あたりのほうが強いのが当たり前なのです。なぜなら、段位は上がることはあっても下がることがないからです。したがって、全盛期をとうに過ぎたオジサンがたやすく決定戦に進出することができるルールと言えるでしょう。いやはやなんとも。

 2011年の第28期十段位戦決定戦に進出したのは、森山茂和(九段)、瀬戸熊直樹(七段=鳳凰位)、石渡正志(七段)、三戸亮祐(五段)、そして十段位の堀内正人(四段)の5名。「八百長により誕生した」と噂される連盟で、またしても八百長らしきものを見せられようとは。しかも、ニコニコ動画で生中継されているというのに!

 まず最下位の石渡が足切りとなり、残り4名の争いとなりました。11回戦終了時のポイントは、瀬戸熊+97.5、堀内+55.1、森山−1.1 三戸−76.8。残りは半荘1回なので、事実上瀬戸熊と堀内の一騎打ちです。森山も確率ゼロではないといえ、ほとんど逆転不可能な点差。こういうのを「目無し」と呼び、「目無しの人間は優勝争いの邪魔をしない」というのが暗黙の了解であり、森山の持論でもあったはずなのです。

 実際、前年の第27期十段戦の観戦記において、滝沢和典プロは「優勝の可能性がなくなると、脇役に徹するという決勝戦の暗黙の了解がある」とハッキリ書いています。しかし…!!

 南3局5本場。最後の親である堀内は粘りに粘っていました。この時点での点数状況は、堀内38,800、森山35,400、瀬戸熊28,200、三戸16,600。供託のリーチ棒1本。こともあろうに、森山が4巡目に切りのリーチと打って出ます。

 高めのドラを堀内から出アガりましたが、一発裏ドラなしのルールですので3,900点(プラス積み場・リーチ棒)という手。これで森山はこの半荘のトップに浮上しましたが、トータル首位には程遠い無意味なアガリです。堀内の必死の連チャンをブチ壊し、ファンが最も見たがっている激しい優勝争いを台無しにする酷いアガリです。プロ失格と断言してもよいくらいの最低のものでした。もちろん、このまま瀬戸熊が優勝しています。

 瀬戸熊は小島武夫・森山らの派閥に属し、彼らが主催する研究会にも参加しています。いわば小島らのお気に入りの存在。これに対し堀内は派閥に属さず研究会にもあまり参加していません。さらに鳴き重視の雀風が小島らに嫌われています。森山としては、お気に入りの瀬戸熊を勝たせるために安手で堀内の親を蹴っ飛ばしたと疑われているわけです。

 百歩譲って、森山が普段から「優勝の可能性がなくても、その半荘だけでもトップを取りに行くべきだ」と主張している人間ならまだよいでしょう(そんなことを言うプロはほとんどいませんが)。しかし、実際は「目無しはおとなしくしていろ!」と厳しく若手にもしつけている人間なのです。まさに言行不一致。優勝の可能性がほぼゼロの森山のアガリなど誰も見たくありません。見たいのは堀内か瀬戸熊のアガリなのです。

 この問題に関しては、八百長か否かはあまり重要な問題ではありません。仮に八百長でなくても、森山のアガリにはプロとしての品格のカケラもないのです。逆に、この愚行に対して恨みがましいことを一言も言わなかった堀内のほうが百万倍もプロフェッショナルな態度でした。

 ちなみに前原は、十段戦のタイトル情報を執筆しています。森山のこのアガリに対し「勝負の結末の仕舞い方は難しい。三戸のように全局オリに向かう姿も美しいと思うし、森山のように開始前に宣言し、トップを目指し4人麻雀の形を崩さない在り方も美しいと思う」と書いています。前原も森山の言いなりのような存在ですから仕方ないのでしょうが、もし同じことを堀内がやったならば、はたして同じことを書いたでしょうか。

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