麻雀プロの収入源

2015/12/19 up

 当サイトのコラム「プロ麻雀団体の統一」では、麻雀プロの収入が不安定であることに少し触れましたが、ここではこれについてもっと深く掘り下げてみることにします。まずは囲碁・将棋界に比べてどれくらい収入が違うのかを明確にしようと思います。

 日本棋院(囲碁)発表による、2013年の獲得賞金ランキングのトップは井山裕太氏で、その金額は1億4078万円! ちなみに10位の張栩氏は1247万円。将棋界もほぼ同じで、日本将棋連盟発表による2014年の獲得賞金ランキングトップの羽生善治氏は1億1499万円、10位の木村一基氏は1634万円です。これは対局料とタイトル戦の賞金を合わせた金額なので、このほかに著書の収入や稽古料などがプラスされるので、トッププロはかなりの収入を得ていることがお分かりいただけると思います。囲碁・将棋の主要スポンサーは、読売・毎日・朝日などの新聞社であり、いずれも日本を代表する大企業なのは言うまでもありません。

 では麻雀はどうなのか。賞金額は公表されていませんので、ここは最高位戦の村上淳プロの良著・「最強麻雀 リーチの絶対感覚」(マイナビ)から引用させていただきます。

 「2010年度は300万円(源泉引かれて275万円)でした。2011年度は20万円(源泉引かれて18万円)。プロ通算15年で獲得賞金は400万円程度だと思います。正直、賞金だけで食べていける麻雀プロは1人もいません。麻雀というゲーム競技はそれだけスポンサーがつきづらいのです」

 村上プロと言えば、最高位2期、最高位戦Classicも2回優勝するなどのトッププロです。それでも生涯獲得賞金(出版された2012年3月当時)400万円なのですから、トッププロでも賞金だけで生活するのは不可能。片山まさゆき先生の名作漫画「ノーマーク爆牌党」で、爆岡弾十郎が「俺様タイトル料だけで食えるから」とつぶやいたのは、まさに漫画だけの世界と言えるでしょう。…現在のところは。

実は巨大なスポンサーがつく予定があった!

 村上プロが「スポンサーがつきづらい」と話していた麻雀界。しかし少し前に、コカ・コーラという巨大なスポンサーがついたことがあるのです。それが2004年5月に開催予定だった「第1回さわやかカップ麻雀フェスティバル」です。当初は「コカ・コーラカップ」という名称でしたが、スポンサーが増えたために名称変更したものです。優勝賞金は150万円、準優勝30万円、3位と4位は10万円でした。

 一般出場者による地方予選が行われ、激戦の予選を勝ち抜いた人は東京で行われる予定だった本戦に出場できました。この大会は珍しく主要なプロ麻雀団体すべてが協力し、トッププロやさらに麻雀強豪の著名人も参加予定でした。実は私は諸事情により予選免除組で、本戦の出場権を持っておりました。私は遠方に住んでいるものですから、東京への旅費と宿泊費の自己負担なしでトッププロ・著名人と打てることを楽しみにしていたのですが…。

 ところが、出場者から1人4000円を徴収し、賞金に充てるものが「賭博に当たる恐れがある」と警察庁から指導が入り、大会の開催中止に追い込まれてしまいました。同様のことは囲碁・将棋などでも行われていますが問題になったことはなく、警察庁は「社会通念に照らして判断するべきで、何もかも問題視するつもりはない」と説明しました。「社会通念」というのは、残念ながら麻雀が賭博であるとみなされていることを表すのでしょう。

 大会の開催中止はメール一本で事務的に私に告げられ、それっきり。昨日までのプラチナ株券が、会社倒産により一晩で紙くずと化すのと似ているかもしれません。トッププロ・著名人と打てなくなってしまったことも残念ですが、それ以上に麻雀界が良い方向に進む大チャンスだったのがフイになり、返す返すも残念でなりません。痛恨の極みであると言えます。このこと以来今日に至るまで、これに匹敵する取り組みは見えてきません。同じことを再び行うにしても、警察庁からの指導が入らないよう慎重に行う必要がありますし、再度スポンサーを集めるのも難儀なのでしょう。

麻雀プロの収入源

 麻雀プロは団体から給与を得るどころか、逆に年会費を納める立場です。もっとも、総会がなく資金の流れがあまりに不透明な日本プロ麻雀連盟(連盟)なら、理事ら一部のプロに何らかの金が流れているかもしれません。麻雀プロの主な収入源としては、雀荘勤務または別な職業での収入が最大のものとなる例が大多数です。連盟のAリーガーだった右田勇一郎プロは2013年、年度途中に突然対局の曜日変更という暴挙を平然と強行され、会社員との両立が不可能になり退会を余儀なくされています。会社勤務こそが生活の糧なのですから、やむを得ない選択と言えるでしょう。

 ゲームセンターやインターネットの麻雀対局のゲスト参戦の報酬も支払われています。よほどの有名プロでなければ半荘1回につき数百円程度というのが相場だそうですが、これも貴重な収入源となっております。

 ほかには著書の収入もありますが、これは一部のトッププロに限られますし、それも微々たるもの。麻雀戦術書の著者の中で最大のベストセラー作家である福地誠先生ですら、ご自身のブログで語っておられるところによれば、1冊につき数十万円程度とのこと。もちろんテレビ対局の出演料なども、同じくトッププロに限定されるうえ、多くは連盟が権利を握っています。

 したがって多くのプロは、雀荘勤務や雀荘経営、あるいは会社員として働くかたわら、土日には公式戦に出場するというスケジュールになります。これがけっこう大変で、堀内正人プロによれば「純粋な休みは月に1日程度」とのことですし、前述の右田プロのような有能な人材が麻雀界から去るということにもなりかねません。

 収入が安定している囲碁・将棋のプロは、対局がない日は研究に没頭したり、あるいは普及活動などにいそしんだりすることができます。しかし麻雀プロはこのように平日は仕事に追われることが多いわけで、なかなか普及などに身を入れることができません。

まずはスポンサーを集めないといけない

 麻雀が囲碁や将棋と同じくらい…とまではいかないまでも、せめて半分くらいの市民権を得るには、まず強力なスポンサーを集めないといけません。スポンサーが集まらない理由はいくつもあります。ゲームセンターやスマホなどで手軽に麻雀というゲームを楽しむ風潮もだいぶ浸透してきましたが、賭け麻雀のイメージがいまだに根強いというのが最大の原因でしょうか。学校で麻雀などやろうものなら、仮に金を賭けていなくても先生に怒られますよね、きっと。

 それと関連しますが、麻雀に対する世間のイメージも囲碁や将棋に比べて厳しいものです。前述の賭け麻雀もそうですし、麻雀漫画ではいまだにヤクザの代打ちをするようなちょっと怖い漫画がけっこうあります。別にそういう作品を否定するわけではありませんが、「ヒカルの碁」などの囲碁漫画や「三月のライオン」などの将棋漫画に比べると明らかに傾向が異なっています。「麻雀って怖い」と、なんとなく考えている人も多いのではないでしょうか。

 むろんそんなことはなく、麻雀は素晴らしい頭脳ゲームなのですが、ふとニコ生のプロの日本プロ麻雀連盟の対局を見てみると、なんと解説者がよってたかって対局者を罵倒しているではありませんか。こんなことでは「麻雀って怖いわねえ」と思われても、返す言葉もないでしょう。

 その連盟、2015年9月現在の4大タイトル戦のタイトルホルダーは、鳳凰・前田直哉プロ、十段・櫻井秀樹プロ、王位・清原継光プロ、マスターズ・白鳥翔プロ。失礼ながら「誰これ?」というのが率直な感想でしょう。私もタイトル獲得時点で名前を知っていたのは、前田プロと白鳥プロだけでした。残念ながら、これではスポンサーは集まりませんよね。もちろん新しい若いプロがたまに登場するのは良いことですが、それに偏りすぎてはスポンサーが集まるはずがありません。

 じゃあどうするかと言われれば、非常に困難なことではありますが、やはり麻雀団体を統一したほうがベターではないでしょうか。もちろん統一すればただちにスポンサーが集まるというものではありませんが、統一によりタイトル戦のレベルが上がれば、少しずつではありますがファンの注目も集まるのではないかと思います。団体が分裂すればするほど人材も分散してタイトル戦のレベルは下がるわけで、それは好ましくありません。

 麻雀団体を統一することでタイトル戦で勝ち上がるのが難しくなり、若いプロが名前を売り出しにくくなるかもしれません。しかしそれ以上に大きなメリットがある、と私は信じています。麻雀界最高のタイトルを小林剛・瀬戸熊直樹・鈴木達也・村上らトッププロが同じ土俵で争う…。なんとも魅力的ではありませんか。麻雀はコカ・コーラほどの巨大企業がスポンサーにつきかけたこともあるほど、魅力的なゲームであるということを忘れないでいただきたいです。

 

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