目無し問題は解決するのか

 2021/11/7up

 プロ麻雀において以前から問題点として指摘されている「目無し問題」。Mリーグにおいても初年度からちょっとした話題にはなっていましたが、「Mリーグ2020」における村上淳プロ(赤坂ドリブンズ)のアガリがかつてないほど物議を醸しました。ちょっと長めの記事ですが、「目無し問題」について予備知識のない方でも、このページを読むだけで大丈夫です!

そもそも「目無し問題」って何ですか?

 麻雀界は4人で行う競技であるにも関わらず、優勝者に賞金や名誉が集中し「2位以下は何位だろうと一緒」という雰囲気があります。ちなみに将棋界で最も賞金額の高い竜王戦では、7番勝負(分かりやすく言えばタイトルホルダーが決定する決勝戦のこと)の勝者に4,400万円の賞金が与えられる一方で、敗者も1,650万円と高額な賞金が得られます(2021年現在)。団体としての仕組みが全く違うので単純比較できないとはいえ、敗者への扱いには圧倒的な大差があります。

 いつしか麻雀界ではタイトル戦最終半荘の南場で、親番が落ちて優勝の目がなくなった人は優勝争いの邪魔をしないことを美徳とする風潮が生まれました。優勝の目がないので「目無し問題」と呼ぶわけです。2010年の第27期十段戦の観戦記において、滝沢和典プロは「優勝の可能性がなくなると、脇役に徹するという決勝戦の暗黙の了解がある」とハッキリ書いています。残念ながら記事はもうなくなってしまったようですが。

 ところが、優勝の目がないのにアガってしまったり、打牌に自分の意思を加えないためにオールツモ切りをしたり、さまざまな行動がそのつど物議を醸しましたが、現在もまだ麻雀界は明確な答えを見いだせていません。そこでMリーグでは2021年シーズンから、活動目的に一文を書き加えて目無し問題に対して一石を投じました。分かりやすくするため、追加された部分を赤い四角で囲っています。


※クリック・タップすると画像が拡大されます。

 このMリーグの方針はどうなのか? その解説をする前に、これまで各麻雀団体では目無し問題についてどのような対応が行われてきたのか、振り返ってみようと思います。

日本プロ麻雀連盟の場合

 前述の通り、連盟所属の滝沢プロは優勝の目がないプロは脇役に徹するのが暗黙の了解であると明記しましたが、翌2011年の第28期十段戦では優勝の可能性がほぼ消えていた森山茂和プロがピンフの安手でリーチをかけ、優勝を争っていた堀内正人プロの邪魔をして瀬戸熊直樹プロの優勝のアシストをする形になりました。

 この対局の観戦記を担当した前原雄大プロは「勝負の結末の仕舞い方は難しい。三戸のように全局オリに向かう姿も美しいと思うし、森山のように開始前に宣言し、トップを目指し4人麻雀の形を崩さない在り方も美しいと思う」と忖度記事を執筆しました(こちらもリンク切れ)。脇役に徹するのが暗黙の了解じゃなかったの?? タッキーは嘘を書いたの?????

 とはいえ、連盟は比較的早く目無し問題に取り組んできた団体でもあります。最終戦を迎えた段階でトータル首位のプロが最終戦では北家、同2位が西家…というふうに並べるのです。これは滝沢プロの提唱により数年前から始まった取り組みらしいです。

 例えばトータル首位のAプロが東家、同2位のBプロが南家、3位のCプロが西家、4位のDプロが北家で最終戦のオーラスを迎えたとしましょう。Aプロはもちろんアガれば優勝、Dプロは首位と何百ポイント差があろうとも、親なのでどんな手でもアガリが許されます。BプロはAプロから倍満直撃か三倍満ツモ以上で逆転とかだとすると、高い手作りが必要なので手が遅くなり、Cプロは優勝の可能性ゼロなので絶対にアガりません。こうなるとB・Cプロはほとんど参戦しないのでA・Dプロの一騎打ちになり、Aプロも放銃しないように慎重に打つのでDプロが連荘する展開になりやすくなります。最終戦のオーラスだけで30分、1時間というようなこともあります。これでは観戦するファンにとっても、たまったものではありません。

 それを少しでも防ぐために導入されたのが「タッキールール」。トータル首位のプロがオーラスの親番と決まっていますから、逆転されていない限りは、オーラスはノーテンで終了するだけで優勝が決まります。実にスピーディーで、他家はそうなる前に早めに得点を積み重ねる必要があるわけです。

 これで目無し問題の何割かは解決しましたが、優勝の可能性がないプロはどう打つべきなのか? それに対する明確な答えはまだ出ていません。

その他の団体の例

 RMUでは2016年から、規定の半荘を消化したあと1局単位の延長戦を導入し、アガった人が総合トップになるまで延長戦を続行するという形をとっています。裏を返せば、大差で3位・4位という選手でも、アガっても対局終了とはならないのでアガっても大丈夫ということです。RMU代表の多井隆晴プロは、選手を守りたいためのルールであることを示唆しています。

 一方で、選手を守るどころか選手に責任をなすりつけて、強引に幕引きを図ったのが日本プロ麻雀協会。あまりに協会の対応が酷すぎて気分を害する可能性もありますが、興味のある方は当サイトの「こちらの記事」をご覧いただければと思います。

 101競技連盟の八翔位戦でもRMUと似た考え方で、あらかじめ設定された勝利条件を満たす選手が現れるまで対局が続行されるため、目無し問題は発生しません。全日本麻雀協会では、その対局での優勝の可能性がなくなっても、自分の通算ポイント・生涯成績を向上させるという意義があるので、目無しになっても通常通りの麻雀を打つケースが増えています。

Mリーグに残る目無し問題

 前述の村上プロは、チームの順位を上げることも絶望的であることから、その半荘の順位を1つでも上げるという打ち方に徹しました。「徹した」と書いたのは、その方針がブレることなく一貫していたためです。その結果、優勝争いに水を差したという批判も浴びましたが、「これはこれで良い」という擁護意見も多く見られ、まさに賛否両論となっています。

 Mリーグも前述の全日本麻雀協会と同じで、けっこう細かく各選手の通算成績が管理されており、これをもとに契約更新・解除が行われている例もありそうなので、目無しになってもその半荘だけでも全力を尽くす意義は大いにあると言えるでしょう。

 ところで「目無し問題をなくすには、2〜4位の賞金額に大きな差をつければいいんじゃね?」という意見がかつてあり、私もそう考えていた時期がありました。しかし、Mリーグでは優勝賞金5000万円、2位が2000万円、3位が1000万円、4位以下がゼロと、かつてないほど大きな差をつけることに成功していますが、目無し問題はなくなっていません。

 そこで追加されたのが、前述のMリーグの活動目的なのです。要約すれば「目無しになった場合でも、チームの順位を上げるアガリをしてもいいですよ」「それすらも難しい場合でも、全力で打ってくださいね」と言っているわけです。

 今までよりは選手たちもやりやすくなったと言えるでしょう。あとは視聴者がこれを理解できるかどうか。例えばテレビ対局の「モンド杯」の決勝卓では、解説者は優勝条件については事細かく言及するものの、「満貫をアガればトータル4位から3位に上がりますねえ」などと解説しているところを聞いたことがありません。依然として、優勝者だけが正義であるという文化は麻雀界にこびりついているのです。

 してみると、実は対局者以上に重要なのは実況・解説者の心構えではないでしょうか。「優勝は絶望的ですが、この手をアガれば3位浮上です。賞金額は1千万円も違ってきます」とか「トータル順位は変わりませんが、満貫直撃かハネ満ツモでこの半荘トップです」とか、あるいは「順位には影響しませんが、この三槓子(サンカンツ)をアガればMリーグ史上初です」とかでもいいわけです。

 Mリーグが「優勝者だけに価値がある」という理論を明確に否定した以上、実況・解説者もそれを念頭に置いた喋りが要求されるのは当然です。そのへん、うまく盛り上げてくれると嬉しいですね。そうすることで、目無し問題の着地点が見つかるかもしれません。

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